【非住宅木造建築 第二章】木造4階建てが注目される理由|1階RC+木造4層の可能性
【非住宅木造建築 第二章】
一級建築士から見た「中高層木造」の可能性
― なぜ今、木造4階建てが注目されるのか
「中高層建築物は、RC造か鉄骨造で建てるもの」
これまで建築業界では、それが一般的な考え方でした。しかし、耐火技術や構造計算、木質系部材の開発が進み、事務所、店舗、福祉施設、宿泊施設、共同住宅などでも、木造を選択できる可能性が広がっています。
その中で、私が一級建築士として特に可能性を感じているのが、1階をRC造、2階から5階までの4層を木造とする、合計5階建ての混構造です。
災害の影響を受けやすい1階をRC造で強くつくり、上部4層を木造で軽くする。そして、木造部分を60分耐火で計画しやすい範囲に納める。
この構成は、安全性、耐火性能、建築コスト、工期、環境性のバランスを取りやすく、これからの鹿児島における非住宅建築の有力な選択肢になると考えています。
なぜ中高層建築でも木造が選ばれるのか
大きな理由は、建築物に求められる価値が変化しているからです。
現在の建物には、安全性や耐久性だけでなく、脱炭素、地域貢献、工期短縮、企業イメージの向上なども求められています。
木は成長する過程で二酸化炭素を吸収し、伐採後も建築物として利用されている間は炭素を固定し続けます。国産材や地域材を建築物に利用することは、森林資源の循環利用と脱炭素社会の実現につながります。
国も、公共建築物だけでなく、民間建築物を含めた木造化・木質化を推進しています。また、建築主、林業・木材産業事業者、建設事業者などが国や地方公共団体と協定を結び、木材利用に取り組む「建築物木材利用促進協定」も設けられています。
参考:林野庁「建築物における木材利用の促進」
参考:林野庁「建築物木材利用促進協定」
鹿児島県でも、県産材を活用した非住宅建築物の整備、木造公共施設への支援、木材利用促進協定など、建築物への木材利用を推進しています。
鹿児島県産材を活用すれば、森林資源の循環だけでなく、林業、製材業、運送業、建設業などへの経済波及効果もあります。
参考:鹿児島県「木材利用」
さらに、木造の事務所や店舗は、建物そのものが企業の環境姿勢を伝えるメッセージになります。脱炭素やSDGsへの取組を目に見える形で発信できることは、企業評価、採用活動、取引先からの信頼という面でも大きな価値を持ちます。
鹿児島市も、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「ゼロカーボンシティかごしま」を掲げています。建築物の木造化や地域材の利用は、地域の脱炭素化に貢献できる取組の一つです。
木造4層が注目される最大の理由は「耐火とコスト」
木造であっても、建築基準法に定められた構造、防火、避難などの基準を満たすことで、中高層建築物を建てることができます。
例えば、構造材を強化石こうボードなどで覆う「メンブレン型耐火構造」や、国土交通大臣の認定を受けた耐火部材を採用することで、火災時にも一定時間、建物の倒壊を防ぐ性能を確保します。
ここで重要なのが、耐火建築物に求められる耐火時間は、単純に建物全体の階数だけで決まるのではなく、原則として最上階から数えた階数によって変わるという点です。
建物の用途、規模、高さ、部位、認定仕様などによって異なりますが、柱や壁などに求められる耐火時間の基本的な考え方は、次のように整理できます。
| 最上階から数えた位置 | 耐火時間の目安 |
|---|---|
| 1層目~4層目 | 60分耐火 |
| 5層目~9層目 | 90分耐火 |
| 10層目~14層目 | 120分耐火 |
つまり、木造部分を最上階から4層以内に納めることが、耐火性能と建築コストを考えるうえで重要なポイントになります。
「1階RC+木造4層」の5階建て
私が推奨したいのが、次の構成です。
| 階 | 構造 | 耐火計画の考え方 |
|---|---|---|
| 5階 | 木造 | 60分耐火 |
| 4階 | 木造 | 60分耐火 |
| 3階 | 木造 | 60分耐火 |
| 2階 | 木造 | 60分耐火 |
| 1階 | RC造 | 必要な耐火性能をRC造で確保 |
この構成では、2階から5階までの木造部分が最上階から4層以内に納まります。そのため、計画条件を満たせば、木造部分を60分耐火仕様で統一しやすくなります。
耐火被覆材や壁・天井の仕様をそろえられるため、材料調達、施工手順、品質管理を合理化できます。60分耐火と90分耐火が木造部分で混在しにくいことは、コストと施工性の両面で大きなメリットです。
また、1階には店舗、駐車場、倉庫、エントランスなどが配置されることが多く、広い開口部や高い剛性が求められます。
1階をRC造とすることで、次の効果が期待できます。
- 広い開口部や大空間を計画しやすい
- 浸水や車両衝突に対する耐久性を確保しやすい
- 建物下部の剛性と安定性を高めやすい
- 外部火災に対する防火性能を確保しやすい
- 店舗、駐車場、倉庫など幅広い用途に対応しやすい
一方、2階以上を木造にすれば、建物上部を軽量化できます。建物が軽くなることで地震時に建物へ加わる力を抑え、地盤や基礎、杭への負担を軽減できる可能性があります。
災害に備えるべき1階はRC造で強くし、上部は木造で軽くする。
この適材適所の考え方が、建物全体の安全性と経済性につながります。
6階建てにすると、なぜコストが上がるのか
それでは、1階をRC造、2階から6階までの5層を木造とした場合はどうでしょうか。
| 階 | 構造 | 耐火計画の考え方 |
|---|---|---|
| 6階 | 木造 | 60分耐火 |
| 5階 | 木造 | 60分耐火 |
| 4階 | 木造 | 60分耐火 |
| 3階 | 木造 | 60分耐火 |
| 2階 | 木造 | 90分耐火 |
| 1階 | RC造 | 必要な耐火性能をRC造で確保 |
6階建てにして木造部分を5層にすると、2階は最上階から数えて5層目になります。そのため、計画条件によっては、2階の木造部分に90分耐火性能が必要になります。
これは単に、木造の階を一つ増やすだけではありません。
90分耐火に対応するため、耐火被覆が厚くなり、柱、梁、壁、天井の納まりが複雑になる可能性があります。さらに、接合部、設備配管やダクトの貫通部、耐火区画、建具との取り合いなどにも、より慎重な設計と施工が必要になります。
その結果、次のようなコスト増加が考えられます。
- 90分耐火に対応する認定部材の採用
- 耐火被覆材と施工手間の増加
- 柱、梁、壁、天井の厚みや納まりの変更
- 設備配管やダクト貫通部の防火処理
- 設計、確認申請、施工管理の負担増加
- 60分耐火と90分耐火が混在することによる品質管理の複雑化
1層分の床面積は増えますが、2階木造部分の90分耐火化によって、追加した床面積以上に建築コストが上昇する可能性があります。
したがって、6階建てにする場合は、増加する賃貸面積や収益と、耐火仕様変更による追加費用を慎重に比較する必要があります。
RC造・鉄骨造・木造はどう違うのか
| 構造 | 主なメリット | 主な注意点 |
|---|---|---|
| RC造 | 耐火性、耐久性、遮音性を確保しやすい | 重量が大きく、基礎・杭や工期への影響が大きい |
| 鉄骨造 | 大空間や長いスパンを計画しやすい | 鋼材価格の影響を受け、耐火被覆も必要 |
| 木造 | 軽量で、工期短縮や基礎負担の軽減が期待できる | 耐火、遮音、防水、接合部の専門的検討が必要 |
| 1階RC+上階木造 | RC造の強さと木造の軽さを組み合わせられる | 異種構造の接合部や剛性差の検討が必要 |
建築費だけでなく、工期、基礎工事、地盤改良、維持管理、減価償却、固定資産税、環境価値、企業のブランド向上まで含め、建物ごとに総合的に比較することが重要です。
中高層木造を成功させる条件
中高層木造は、RC造や鉄骨造の設計を、そのまま木造に置き換えるだけでは成立しません。
木造に適した柱の配置、スパン、耐力壁、耐火区画、階高、設備スペースを基本計画の段階から検討する必要があります。
意匠設計者、構造設計者、設備設計者、木材供給者、プレカット工場、施工者が早い段階から連携することも欠かせません。
木造に向かないプランを無理に木造化すると、構造材や接合金物が増え、かえって建築費が高くなります。反対に、木造の特性を生かして計画すれば、安全性、経済性、環境性を備えた魅力的な建築を実現できます。
「1階RC+木造4層」が鹿児島の新しい選択肢になる
中高層木造は、すべての建物に適した万能な構造ではありません。
しかし、これまでRC造や鉄骨造しか考えられなかった非住宅建築に、新しい可能性をもたらします。
中でも、1階RC+木造4層の5階建ては、次の条件を両立しやすい構成です。
- 1階RC造による災害対応力
- 上部木造化による建物の軽量化
- 木造4層を60分耐火で統一しやすい経済性
- 基礎や杭への負担軽減
- 工期短縮と施工の合理化
- 鹿児島県産材の活用
- 脱炭素と企業価値の向上
私たちが目指すのは、単に木を使うことではありません。
安全で、長く使われ、事業として成立し、地域の木材と人材が活躍できる建築をつくることです。
地元の木を使い、地域の職人が建て、利用する企業が環境への取組を発信する。その積み重ねが鹿児島の森林を守り、地域経済を循環させ、子どもたちの未来を豊かにしていきます。
災害に備える1階をRC造で強くし、2階から5階までの木造4層を軽く、合理的につくる。
「1階RC+木造4層」の5階建ては、コストと災害対応力のバランスに優れた、これからの鹿児島にふさわしい中高層木造建築の形だと考えています。
私たちベルハウジングも、これまで培ってきた木造の設計・施工技術を生かし、鹿児島の木と地域の力を生かした「これからの非住宅木造建築」に挑戦していきます。
(株)ベルハウジング 一級建築士・一級建築施工管理技士 松田英之
国・鹿児島県の関連情報
非住宅木造を検討される方は、国・鹿児島県の最新情報もご確認ください。
林野庁|建築物における木材の利用の促進に関する基本方針
国がなぜ民間を含む建築物全体で木材利用を進めているのか、その基本的な考え方がまとめられています。
林野庁|建築物の木造化・木質化に活用可能な補助事業・制度等一覧
2026年度の国や関係機関による補助事業・支援制度がまとめられています。
林野庁|建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン
建物に使用した木材による炭素貯蔵量を「見える化」する考え方です。
国土交通省|中大規模建築物の木造化を促進する防火規定の合理化
木造建築の耐火・防火規制がどのように変わってきたのか確認できます。
鹿児島県|みんなでつくる「かごしま木のまち」推進事業
非住宅建築物等の木造化・木質化に対する鹿児島県の支援制度です。
